薄い本革のレディース長財布に救われた、ミニバッグの女の物語

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※登場人物は全て仮名です。

私の名前は麻衣、32歳。アパレルのプレス担当。

今日も颯爽とオフィスに向かう。肩にかけたのは、先月3万円で買ったばかりのイタリア製ミニバッグ。インスタで見つけた瞬間、一目惚れした。

「大人の女性は、荷物が少ない」

そう、私はミニマリストを目指している。いや、目指していた、と言うべきか。

問題は一つだけあった。財布である。

膨張する日常

長財布が好きだ。二つ折りは貧乏臭い気がするし、ミニ財布は小銭が取り出しにくい。だから私は、ずっと長財布派を貫いてきた。

でも最近、財布に異変が起きている。

まず、ドラッグストアのポイントカードが5枚ある。なぜなら、行く店舗によってカードが違うからだ。次に、美容院、ネイルサロン、エステ、マッサージ、それぞれのスタンプカード。「次回10%オフ」と書かれたクーポンは、期限が3ヶ月前に切れている。

レシートは、もはや考古学的資料だ。最古のものは、去年の夏のコンビニレシート。なぜ残っているのか、私にもわからない。

結果、私の長財布は厚さ6センチの「革製アコーディオン」と化した。

ミニバッグに入れると、ファスナーが閉まらない。無理やり押し込むと、バッグの形が歪む。まるで、小さなリュックサックに寝袋を詰め込んだような状態だ。

それでも私は言い聞かせる。「大丈夫、私はミニバッグ女子」

カフェでの惨劇

そんなある日、後輩の美咲とカフェでランチをした。

美咲は22歳。バッグも財布も、全てがミニマル。彼女のバッグからは、薄い二つ折り財布がスッと出てくる。スマート。美しい。完璧。

一方、私はミニバッグのファスナーと格闘していた。

「麻衣さん、お会計別々でいいですか?」

「もちろん!」

私は財布を取り出そうとした。いや、正確には「財布を引きずり出そうとした」。

ズズズズ...。

ミニバッグの口から、膨れ上がった長財布が少しずつ姿を現す。まるで、狭い引き出しから布団を取り出すような光景だ。

美咲の目が、一瞬だけ大きくなった。

「...すごい収納力ですね、その財布」

それは褒め言葉ではない。完全に、ドン引きの社交辞令だった。

財布を開くと、小銭入れから500円玉が1枚、テーブルに落ちた。コロコロコロ...と転がり、隣の席のサラリーマンの足元まで到達。

「すみません」と拾ってもらう私。32歳、アパレルのプレス担当。

恥ずかしさで死にそうだった。

深夜のSNS

その夜、布団の中でインスタを眺めていた。

タイムラインに流れてきた投稿。

「ミニバッグ派の救世主。厚さ1.5cmの本革長財布」

写真には、美しいキャメル色の長財布。薄い。本当に薄い。私の財布の、4分の1くらいの厚さだ。

L字ファスナーで大きく開く小銭入れ。カードポケットは20枚分。マチがないのに、札入れは2層構造。

コメント欄を読む。

「これに変えてから、レシート溜め込まなくなった」 「物理的に入らないから、整理する習慣がついた」 「フラグメントケースと併用で、ポイントカードは別管理」 「やっと大人の女になれた気がする」

最後のコメントが、胸に刺さった。

そうだ。私は「大人の女のフリ」をしていただけだ。ミニバッグを持って、おしゃれなカフェに行って、でも財布はパンパン。中身は整理できない子供のまま。

私に必要なのは、大容量の財布じゃない。薄くて機能的で、物理的に「整理せざるを得ない構造」の財布だ。

運命の出会い

翌日、仕事帰りに革製品の専門店へ向かった。

店員さんに声をかける。「薄い長財布、ありますか?」

案内されたコーナーには、様々な薄型長財布が並んでいた。

「こちらが人気です。厚さ1.5cm、本革製。L字ファスナーなので小銭が取り出しやすく、カードは20枚収納できます」

手に取る。軽い。薄い。でも、革の質感は本物。

「これ、本当に長財布として使えるんですか?」

それが、逆に良い。

私は、強制的に整理する仕組みが欲しかったのだ。

新しい日常

財布を買い替えて、1週間が経った。

変化は劇的だった。

まず、レシートをその日のうちに捨てるようになった。入らないから。ポイントカードはスマホアプリに統合。どうしても必要なカードだけ、フラグメントケースに別管理。

結果、財布の厚さは常に2cm以下。

ミニバッグにスッと入る。ファスナーもスムーズに閉まる。バッグの形も崩れない。

そして何より、カフェで会計する時、財布がスマートに出てくる。美咲と再びランチした時、彼女は言った。

「麻衣さん、財布変えました?すごくおしゃれ」

その言葉が、心から嬉しかった。

真実に気づいた夜

ある夜、ふと気づいた。

私がやめられなかったのは「長財布派」じゃなかった。やめられなかったのは「整理できない自分」だった。

財布がパンパンだったのは、長財布だからじゃない。私が、レシートもカードも、全部溜め込んでいたからだ。

薄い長財布は、私に「選択」を強制した。何を持ち、何を手放すか。

物理的な制約が、私を大人にしてくれた。

ミニバッグと薄い財布。ようやく、私は本物の「ミニバッグ女子」になれた気がする。

いや、正確には「やっと大人の女になれた」のかもしれない。

そう思いながら、私はキャメル色の財布を撫でた。美しい革の質感。これからも、ずっと一緒だ。

 

 

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